衛星画像SARへの取り組み

1. SARとは

 SARとは、Synthetic Aperture Radarの略称で、日本語で合成開口レーダーと呼ばれるレーダーの一種です。航空機や人工衛星に搭載して移動しながら地上に対してマイクロ波を照射して、地表からの後方散乱波を受信する能動型センサーです。移動しながら送受信を行うことでレーダーは仮想的に大きな開口面(レーダーの受信アンテナ)を持つこととなり、この仮想的に開口面を大きくする合成することから合成開口レーダーと呼ばれます。
 後方散乱は波や粒子信号の来た方向への反射のことを示します。このSARから照射されるマイクロ波は雲を透過すると共に、地表面からの太陽光の反射を観測に必要としないため、夜間観測もできるという特徴があります。

干渉SARの原理

出典:干渉SARの原理(国土交通省 国土地理院)

https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/sar_mechanism.html

2. SARの特徴及び活用方法

 SARは天候や時間に依存せずに観測することができます。但しSARは光学センサーとは違い、写真のようなデータを取得するものではなく、反射して返ってきたマイクロ波の強弱を画像データとして可視化するものです。SAR画像は一見して地表の状況がわかりにくいデータです。しかし、観測された後方散乱波の強弱から地表にある対象物の大きさ、表面の性質が分かると共に、電波が戻ってくるまでの時間を測定することで対象物までのおおまかな距離も測定できます。この特性を利用することで観測対象範囲の土地被覆状況や地形情報を推定することができます。

3.各種衛星とその特徴

 SARを搭載した人工衛星は日本を含め複数の国から打ち上げられています。それぞれの衛星に様々な特徴がありますが、特に観測波長の違いによって得られる特性が変化します。現在、主に運用されているSARにはL, C, Xバンドが挙げられます。
 それぞれのバンドの波長は、Lバンド:15~30cm、Cバンド3.75~7.5cm、Xバンド2.4~3.75cmです。一般的に短い波長の電波は物質の表面で反射しやすく、長い波長の電波は物質内部にある程度入り込みます。例えば、Xバンドの場合、電波が樹の林冠に照射された場合、表面で散乱・反射します。CやLバンドの場合、林冠の内部を透過し、林冠内部や枝や幹などで散乱・反射します。この散乱・反射の違いによって、得られる散乱強度が大きく異なり、SAR画像での見え方も変わります。

SRTMの観測原理(詳細)その2

出典:SRTMの観測原理(詳細)その2

https://iss.jaxa.jp/shuttle/flight/sts99/mis_principle_1.html

 Lバンドで代表的なものは、国産衛星にALOS2にLバンドセンサー(PALSAR:フェーズドアレイLバンド合成開口レーダー)が搭載されています。Lバンドは波長が長く、ある程度の植生は透過して地表からの後方散乱を取得することができます。地殻変動等の地形変化を解析するのに向いています。

ALOS-2

出典:ALOS-2(一般財団法人 リモート・センシング技術センター)

https://www.restec.or.jp/solution/product/alos-2.html

 Cバンドは、ESA(European Space Research Organization:ヨーロッパ宇宙機関)が運用しているSentinel-1衛星に搭載されてたSARセンサーの利用が活発です。観測対象が樹木である場合、地表面までは透過せず途中にある枝に反射します。

Sentinel-1(ESA)

Copernicus: Sentinel-1(ESA)

https://directory.eoportal.org/web/eoportal/satellite-missions/c-missions/copernicus-sentinel-1

 Xバンドは、ドイツのTerraSAR-Xが代表的な衛星になります。TerraSAR-Xは世界初のXバンド合成開口レーダーを持つ商用画像サービス衛星です。Lバンドの衛星に比して高解像度であると共に植生の葉で反射されます。被覆物の表層で反射する特性から農地や草地の監視や分類への利用が可能です。

4.今後の取り組み

 弊社では、CバンドであるESA(European Space Research Organization:ヨーロッパ宇宙機関)Sentinel-1のデータを利用し、災害前後の変異抽出を試み、その成果を提供していけるよう準備を進めております。
 Sentinel-1は2014年4月から運用されており、12日間隔で地球全域の同じ地域の上空を観測しており、このアーカイブが蓄積されています。
 下記資料は2018年の西日本豪雨前後におけるダム周辺の事例となります。

 ダウンロードしたデータに地理情報に沿った配置を行い、処理後の後方散乱係数を示すデータを比較のために重ね合わせてRGB配色合成しています。
 しかし、この状態では2時期の差違を判読するのが難しい状態です。

 被災前後となる2時期の差違を明確にするため、正負の差違が大きい箇所に赤と青色の配色をそれぞれ行いました。
 その結果、幾つかの箇所が抽出されましたが、この差分が大きい箇所が地形的に変位があったとは断言することは難しい状態です。
 そこで、近似した2時期のSentinel-2の光学画像データから植生指数(NDVI:Normalized Differencial Vegetation Index)の差分を可視化した画像と重ね合わせてみました。
 下部のモノクロ画像がその画像であり、白色の部分がNDVIの差分が大きい箇所です。これらの箇所は短期間に植生が大きく変化していることが推定されることから、土砂災害等の崩落等が発生していることが推定されます。
 以上のことから、SAR差分抽出データに、NDVI差分画像を重ね合わせることで、SAR画像による変位箇所抽出を裏付けることが言えます。

 必ずしもこの場所で土砂災害が発生していた訳ではありませんが、実際に崩落などの何等かの被害があった事も確認しています。
 今後、Sentinel-1データを用いた変異箇所の抽出手法を洗練させていくと共に、データを蓄積していく予定です。
 SAR画像解析によって抽出された推定変異箇所において、実際にどういった変化があるのかは現地を確認しない限り推測の域を越えることはありません。この変異抽出解析と現地確認をDX化による一元手法を構築し、普段、人の目が届かない場所での潜在的な崩落や災害リスクをいち早く抽出し、対策活動の初動体制を整えていきます。
 更に、UAV観測による速報データの作成や、現地測量による詳細な現地状況の図面化等、迅速な一連の調査として、地域密着型の機動力を生かした取り組みを進めて参ります。